30年続いた「慣習的不正」が炙り出す、日本の構造的リスク──LPガス容器耐圧試験不正問題から学ぶ
福岡県飯塚市のLPガス容器検査所「大内田産業」で、法律で義務付けられた耐圧試験を30年にわたり実施せず、「合格」として出荷していた不正行為が発覚しました。対象は約8万5,000本にのぼり、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分の一般家庭や事業所に広く流通していた事実が、社会に大きな衝撃を与えています。
この問題の本質は、単なる検査の不履行ではなく、「長年慣習化した不正」という構造的リスクの顕在化にあります。今回の事案では、現社長が「先代のころからやっていたため、動機はわからない」と説明しており、不正の継承が無自覚に行われていた可能性が高いことが示唆されています。
不正リスク管理の観点から重要なのは、「誰が行ったか」よりも「なぜ続いたか」に焦点を当てることです。不正が数十年にわたり継続した背景には、検査体制の甘さ、監督機関による実効性ある監査の欠如、さらには内部通報制度や内部統制の未整備といった、組織ガバナンス上の根本的課題が存在していたと考えられます。
今回のような「慣習的不正」は、企業内部で「黙認の文化」や「形式だけの遵守」が根づいてしまうことで生まれやすくなります。特に、目視での確認が難しい専門性の高い分野や、長期的な信頼に支えられている事業では、不正の温床となるリスクが潜在しています。
日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)では、不正の予防と早期発見には「倫理教育」「内部統制の強化」「通報制度の整備」「第三者による定期的な監査」の4つが不可欠であると提唱しています。本件においても、社内・業界内での通報制度が早期に機能していれば、不正の拡大を防げた可能性は否定できません。
今後求められるのは、再発防止のための罰則強化や制度見直しだけではありません。不正を許さない企業風土を醸成し、すべての業界において「倫理が現場の習慣になる」体制を根づかせる努力が必要です。これこそが、不正を生まない社会への第一歩であると私たちは考えます。