一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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NEW CFEコラム

高い成果の陰に潜むリスク

―営業組織とガバナンスを再考する―

企業不祥事が報じられるたびに、私たちは「なぜ防げなかったのか」という問いに向き合うことになります。特に営業組織における不適切行為や不正事案では、当事者が「優秀な社員」と評価されていたという事実が後になって明らかになることも少なくありません。組織の成長を牽引してきた存在が、なぜリスクの震源となるのでしょうか。

営業という職務は、成果が明確に数値化され、評価や報酬に直結しやすい特性を持っています。この透明性は本来、健全な競争と組織活力を生む要素です。しかし、短期的な成果のみを過度に重視する風土や、達成困難な目標設定が常態化すると、その環境は別の側面を帯び始めます。強いプレッシャーのもとで、結果を出さなければならないという意識が先鋭化し、手続や倫理が二次的なものへと押しやられてしまうのです。

ACFEが提唱する「不正のトライアングル」は、不正が生じる背景として、圧力・機会・正当化の三要素を挙げています。営業現場では、目標達成への圧力が強まりやすい一方、顧客対応が個人に委ねられることにより、行為の過程が外部から見えにくくなる傾向があります。さらに、成果を上げているという事実が自己正当化を後押しし、「多少の逸脱は組織の利益になる」という誤った認識が形成される危険も否定できません。

問題は、個々の倫理観のみに帰すことはできない点にあります。成果を過度に称揚し、統制を「信頼」の名のもとに緩めてしまう組織文化があれば、それ自体がリスク要因となります。とりわけ、成功体験を積み重ねた人材ほど、周囲が遠慮し、チェック機能が形式化しやすいという逆説が存在します。信頼は重要ですが、統制の代替にはなり得ません。

ガバナンスの本質は、業績を抑制することではなく、持続的成長を支える枠組みを整えることにあります。評価制度が短期的成果に偏っていないか、承認プロセスが実質的に機能しているか、内部通報制度が安心して利用できる環境になっているか。これらは単なる制度設計の問題ではなく、経営の姿勢そのものを映し出します。経営トップが「売上よりも信頼を優先する」という明確なメッセージを発し続けなければ、現場は最終的に数字を優先する選択をするでしょう。

不祥事が発覚した際、「一部の社員による逸脱行為」として処理することは容易です。しかし、その背後にある評価制度や組織文化、監督体制に目を向けなければ、同様の事象は形を変えて再発します。不正は個人の問題であると同時に、組織環境の問題でもあるのです。

企業が長期的な信頼を築くためには、収益性と倫理性を対立概念として捉えるのではなく、両立させる経営思想が求められます。統制はブレーキではなく、安全にスピードを出すための装置です。成果を追求する組織であるからこそ、その基盤となるガバナンスの強度が問われます。

ACFE JAPANは、今後も不正リスクの未然防止と健全な組織文化の醸成に向けた知見の共有を通じて、持続可能な企業活動を支援してまいります。

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