診断書偽造による不正休暇取得 ― 組織に求められる内部統制と倫理意識の醸成
神戸市は2023年2月から2024年1月にかけて、生理休暇の取得に必要な診断書や領収書を偽造し、合計55日間もの休暇を不正取得していた女性職員に対し、懲戒免職処分を行ったと発表しました。
この事案は、一見すると「個人の不正行為」として捉えられがちですが、組織全体の不正リスク管理の観点から重要な示唆を与えています。
■ 不正が発生する背景
不正行為が起きる際にはしばしば「不正のトライアングル」が作用します。すなわち、
動機(プレッシャー)
機会(内部統制の弱さ)
正当化(自己合理化)
今回のケースでは、本人の事情や動機がどのようなものであったかは公表されていませんが、少なくとも「診断書や領収書を容易に偽造でき、それを見抜けない仕組み」であったことが、不正を繰り返す「機会」を与えてしまったと考えられます。
■ 組織に求められる対応
この種の不正を防止するには、以下の観点が不可欠です。
証憑書類の真正性確認
医療機関発行の診断書や領収書は、電子化・オンライン化が進む中で真贋のチェックが容易でない場合もあります。提出された書類の不自然な点や形式の相違を確認できる仕組みが求められます。
内部通報制度の機能強化
不自然な休暇取得や勤務態度の変化を周囲が気づいていても、それを指摘しづらい環境では不正は見過ごされがちです。匿名で相談・通報できる制度の周知と信頼性が必要です。
倫理教育の徹底
職員一人ひとりが「小さな不正でも重大な背信行為である」という認識を持つことが、防止の第一歩です。特に公務員は市民の信頼を基盤として職務を遂行しているため、倫理意識の醸成は不可欠です。
■ 組織風土と信頼の再構築
今回の神戸市における一連の処分(酒気帯び運転や窃盗事案を含む)は、組織全体のコンプライアンス体制に対する市民の不信を招く可能性があります。単に個別の処分を行うだけでなく、再発防止策を具体的に示し、市民の信頼を回復するための姿勢が強く求められます。
私たち一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)は、不正の未然防止と早期発見の仕組み作り、ならびに不正に対する社会全体の意識向上に取り組んでいます。今回の事案を契機に、多くの組織が「不正はどこでも起こり得る」という前提に立ち、内部統制と倫理教育の強化に取り組むことを強く期待します。