経費の還流構造とガバナンス不全──NST新潟総合テレビの所得隠し問題から考える組織の不正リスク
2025年6月、NST新潟総合テレビが関東信越国税局から約11億円の所得隠しを指摘され、約7億円超の納税に応じたと報じられました。同社は「組織的な所得隠しではない」と説明していますが、報道によれば、CM制作費を装って費用を計上し、その支払先の多くが元社員の親族名義の会社に流れていたという事実が税務調査で明らかになりました。
本件は、いわゆる「経費の仮装・隠蔽」と呼ばれる典型的な不正手口の一つであり、内部統制の機能不全と、関連当事者取引の透明性欠如が招いた重大な事案といえるでしょう。
ガバナンスの形式と実質
企業におけるガバナンスやコンプライアンス体制は、形式的に整備されているだけでは不十分です。今回のように、経費の支出構造が不透明で、個人の恣意に委ねられていた状況は、形式上のルールがあっても実質的に機能していなかった可能性を示唆します。
「組織的でない」という釈明は、裏を返せば内部通報や牽制機能が十分に働いていなかったことを意味しており、むしろガバナンスの脆弱性を露呈するものです。
リスクの兆候を見逃さないために
不正は、往々にして関係者の「身内」や「長年の信頼関係」の中で温存され、外部からは見えにくい形で進行します。今回のようなケースにおいても、支払先や業務実態の定期的なレビュー、第三者による監査、内部通報制度の適切な運用など、いくつかの早期発見の機会があった可能性は否めません。
不正の兆候を見逃さず、適切な対応を取るには、専門的な知識と倫理観をもった人材の存在が不可欠です。
CFE資格者による不正対策の実効性
ACFE(公認不正検査士協会)は、世界最大の不正対策の専門家組織として、企業における不正防止・検知・調査の体制強化を支援しています。CFE(公認不正検査士)資格者は、財務、法務、調査、内部統制など多角的な知見を活かし、組織の健全性を守る担い手です。
今回のような事案を教訓とし、組織は改めて自らの統制環境を見直すべきタイミングにあります。そして、そうした再発防止においても、CFE資格者のような専門性を備えた人材の関与が有効であることを、改めて社会全体が認識すべきと考えます。