一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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消防団の「報酬上納」問題にみる、組織的慣行と不正の境界──制度の盲点とガバナンスの課題

非常勤公務員として地域防災を支える消防団において、団員に支給される報酬が組織内部で「上納」されるという不正が、総務省消防庁の是正通知後も一部で継続していることが報道により明らかとなりました。これは、不正の「動機・機会・正当化」という古典的三要素が密接に絡み合った典型的な事例であり、地域組織におけるガバナンスの形骸化が不正を助長する危うさを示しています。

消防団員は非常勤特別職の地方公務員として、災害対応や地域防災に従事しています。その対価として自治体から支給される報酬が、実際には団の内部で回収・上納され、団員本人が受け取れないという実態が複数の地域で確認されました。報酬は、現金手渡しや口座預かりといった手口で徴収されるケースもあり、総務省消防庁が2022年に是正通知を出したにもかかわらず、問題は根絶されていない状況です。

こうした構造的な不正の背景には、次の3つの要因が複雑に絡んでいます。

動機(Motivation):団の親睦費や活動費を補填するという「公益的」な名目が存在

機会(Opportunity):報酬支給ルートの不透明さや、通帳を預けさせるといった強い内部支配構造

正当化(Rationalization):慣行として長年行われてきたこと、団全体のためであるという誤った正義感

これらはまさに不正リスク評価のフレームワーク「不正のトライアングル」を構成する要素であり、表面上は「善意の寄付」「暗黙のルール」として認識されやすい点に深い根があります。しかし、本人の自由意思を欠いた上納や通帳の預かり行為は、明確に法令・通達に反する不正行為であり、長年にわたり見過ごされてきた背景には内部牽制の欠如と、通報制度の未整備があります。

本協会では、本件のような“制度的な不正”において重要なのは、個人の倫理だけではなく組織文化そのものの健全性であると考えています。特に地方自治体や地域密着型の組織では、「和」や「慣習」が優先されやすく、内部通報や監査の機能が形骸化する傾向があります。

そのような環境下で、内部からの不正発見や是正が行われるためには、次のような仕組みの強化が不可欠です:

自治体による定期的な監査とヒアリングの徹底

匿名で報告できる内部通報制度の整備とその周知

報酬支払いの直接支給・デジタル化による透明性の確保

団員への倫理・法令遵守研修の実施

地域社会の信頼を担う存在である消防団が、制度の盲点をついた慣行により、逆に不信の火種となってしまっては本末転倒です。本件は、組織の文化や慣習に内在する「正当化された不正」に対し、どこまで構造的に対処できるかというガバナンスの真価が問われる事案です。

本協会は今後も、不正の芽を早期に察知・是正しうる仕組みの社会実装を推進するとともに、地域組織を含むあらゆる団体のガバナンス強化に資する教育・啓発活動を展開してまいります。

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