一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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沼津市職員による人事情報不正閲覧事件:信頼失墜と再発防止への課題

静岡県沼津市で、ICT推進課に所属していた男性職員4名が、職務権限を不正に利用し、他の職員のパソコン画面を閲覧、内示前の人事情報を漏えいするという由々しき事態が発生しました。20代から40代の職員たちが、興味本位や特定の職員の状況確認といった私的な理由で、合計2867回にも及ぶ不正なアクセスを繰り返していたという事実は、市民の信頼を大きく損なうものであり、強い憤りを覚えます。

今回の事件で特に問題視されるべき点は、職員たちがトラブル対応という正当な目的のために付与されていた遠隔操作権限を、完全に逸脱し、私的な情報収集に悪用していたことです。システムに残された記録からは、常態的に不正な閲覧が行われていたことが窺え、組織内におけるチェック体制の甘さと、倫理観の欠如が浮き彫りになりました。

内示前の人事情報は、職員にとって非常に機密性の高い情報であり、その漏えいは当事者のキャリアや生活設計に大きな影響を与えかねません。また、特定の女性職員の端末を繰り返し閲覧していたという行為は、ハラスメントにも繋がりかねない深刻な問題です。幸い、市民の個人情報の漏えいは確認されていませんが、今回の不正行為は、公務員としての職務遂行に対する信頼を根底から揺るがすものです。

頼重秀一市長は、この事態を重く受け止め、自身の処分についても検討する考えを示しています。市長の姿勢は理解できるものの、今回の事件は個々の職員の倫理観の問題に留まらず、組織全体の管理体制、情報セキュリティ意識の低さが露呈した結果と言わざるを得ません。

沼津市は、再発防止策として遠隔操作時の上司への報告義務化などを発表していますが、これだけで十分とは言えません。今後は、全職員に対する倫理研修の徹底、情報セキュリティに関する意識向上、そして不正行為を早期に発見できるような内部監査体制の強化が不可欠です。また、今回の不正行為に関与した職員への処分内容が、市民の納得を得られるものであるかも重要なポイントとなります。

地方自治体は、市民の負託を受け、公共の利益のために業務を行う組織です。職員一人ひとりが高い倫理観を持ち、法令遵守を徹底することは当然の責務です。今回の事件を教訓とし、沼津市は信頼回復に向けた徹底的な取り組みを進める必要があります。そして、他の自治体においても、同様の事態が発生しないよう、改めて情報管理体制と職員の倫理教育を見直す必要があるでしょう。市民の信頼を取り戻すには、透明性の高い情報公開と、実効性のある再発防止策の実行が不可欠です。

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