一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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形式的適正を欠いた取締りがもたらす統治リスク

神奈川県警第2交通機動隊において、速度違反等の取締りに関し約2,700件もの違反が取り消され、反則金約3,500万円が返還されるという事態が明らかになりました。さらに、一部では虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで書類送検が予定されていると報じられています。

本件は、単なる手続上の誤りではなく、「成果」や「効率」を優先する組織文化が、統制を逸脱した結果として顕在化した可能性を示唆しています。交通違反取締りは重大事故防止という公益目的のもとに行われる行政活動であり、その正当性は厳格な手続的適正に支えられています。ゆえに、その根幹が揺らげば、行政に対する信頼全体に波及する重大なガバナンス問題となります。

1.不正の構造的要因 ― 「実績主義」と同調圧力

報道によれば、追跡距離を実際より長く記載するなどして適正な取締りを装った疑いが持たれています。また、実況見分を行わずインターネット地図を流用して調書を作成した可能性も指摘されています。

ここに見えるのは、典型的な「合理化」と「圧力」の構図です。

実績を上げたいという動機(プレッシャー)

時間短縮という自己正当化(合理化)

上司の黙認や同僚の追従(組織的同調)

これは、企業不正や公的機関の不祥事でも繰り返し観察される構造であり、不正のトライアングル(動機・機会・合理化)に照らしても極めて示唆的です。

2.「形式軽視」が招く信頼の毀損

「実況見分に時間を取られるよりも実績を上げたかった」という趣旨の説明は、成果指標が本来目的を凌駕した状態を象徴しています。

コンプライアンスの本質は、結果の妥当性だけではなく、プロセスの適正性にあります。

たとえ実際に違反があったとしても、証明手続が不適正であれば行政処分は維持できません。今回、明白な違反が確認できた事例を除き多数が取り消しとなったことは、証拠管理・文書統制の重要性を改めて浮き彫りにしました。

形式を軽視する文化は、「目的の正しさ」を盾にして拡大しやすいという特徴があります。しかし、公的権限行使においては、形式こそが市民の権利を守る防波堤です。

3.内部統制と監督責任の視点

本件では、上司がとがめず、同僚が追従していた可能性が指摘されています。これは個人の逸脱というより、内部統制の機能不全を示唆します。

組織における再発防止の鍵は以下にあります。

成果指標(KPI)の見直し

文書作成プロセスの検証可能性確保

定期的な内部監査・抜き打ちレビュー

通報制度の実効性確保

「手続を守ること」が評価される人事制度

不正は発覚そのものよりも、発見できなかった期間の長さに問題の本質があります。ドライブレコーダー映像の検証により多数が取り消されたという事実は、デジタル証跡の活用が今後の統制強化に資することも示しています。

4.信頼回復への道筋

違反取消しや反則金返還のための専従チーム設置は必要な措置ですが、信頼回復は制度設計の再構築なくして達成できません。

市民の信頼は、「不正がなかったこと」ではなく、「不正があれば是正される仕組みがあること」によって担保されます。

本件は警察組織の問題にとどまらず、あらゆる組織に共通する教訓を含んでいます。

目標達成の圧力が統制を侵食するとき、不正は静かに正当化され始めます。

私たち 一般社団法人日本公認不正検査士協会 は、不正の未然防止とガバナンス強化の観点から、形式的適正を軽視しない組織文化の醸成と、実効性ある内部統制の構築を社会全体で推進していく必要があると考えます。

公的機関であれ民間企業であれ、「正しい目的」を掲げるだけでは不十分です。

正しい手続を守り続ける統治構造こそが、持続可能な信頼の基盤となるのです。

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