「“楽をして儲けたい”は組織の中でどのように生まれるのか ― タカラトミー不正問題から考えるガバナンスと風土」
国民的玩具ブランドを数多く有するタカラトミーで、長年にわたり小売店を欺く形での不正が繰り返されていたことが明らかになりました。小売店が新商品の採用を判断する際に用いる「テストセール」において、同社社員が一般消費者を装って自社製品を購入し、売れ行きを人工的に良く見せかけていたのです。この行為は、小売店が実際の需要に基づいて商品ラインナップを決定するという前提を損ない、取引先に誤った判断を促す「詐欺行為」にあたります。
さらに問題なのは、この不正が一人の判断ではなく、6年にわたり複数部署にまたがって継続されていたことです。担当部門が変わり、管理職も入れ替わっていたにもかかわらず、なぜ不正は止まらなかったのでしょうか。
同社社長は社内説明会において、「性弱説」、すなわち人は誰しも“楽をして成果を上げたい”という弱さを持つと述べたとされています。しかし今回浮かび上がったのは、個々人の弱さだけではなく、弱さを受け入れ、継承してしまう組織風土そのものであると考えられます。
組織的不正が生まれる3つの要因
成果偏重の評価体系
「売れること」が最優先され、プロセスや倫理が後回しになると、不正が“合理的手段”に見えてしまいます。
内部統制の形骸化
業務が別部署に移っても不正が継続したことは、チェック体制が実質的に機能していなかった可能性を示します。
沈黙の同調圧力
異議を唱えることが“空気を乱す行為”と感じられると、声を上げるインセンティブは失われます。
その結果、不正は「前例」として引き継がれていきます。
求められるのは、“倫理を語り合う組織”です
タカラトミーは、商品回収に際して社長が子どもに語りかける文体で謝罪文を送付し、好意的な反応を得ました。しかし一方で、内部の不正に関しては、発覚後も公表を行わず、透明性に欠ける対応が続いていたとされています。外向きの誠実さと、内向きの統制・倫理観が一致していないことこそ、今回の問題の核心であると言えます。
ガバナンスとは、単にルールや制度を整えることではありません。
・現場が疑問や違和感を表明できる雰囲気
・成果だけではなくプロセスを評価する文化
・「正しくないことはしない」と言える心理的安全性
これらが日常的に育まれていることが重要です。
不正は突然生まれるものではありません。
小さな逸脱が積み重なり、誰も止めなかった結果として、組織的不正は形成されます。
今回の事案は、玩具業界に限らず、どの組織でも起こり得る問題です。
問われているのは、人の弱さを前提にしつつ、それでも正しい行動が選択される仕組みと文化を構築できるかどうかです。