「形式から実質へ」― コーポレートガバナンス改革の次なる論点
2026年5月25日付のBloomberg記事において、金融庁で企業開示やコーポレートガバナンスを担当する 新発田龍史 氏が、日本企業の資本効率や機関投資家の責任について注目すべき見解を示されました。
同氏は、昨年開催された ACFE JAPAN カンファレンス においてもご講演いただいており、日本企業におけるガバナンス改革の方向性や、企業価値向上に向けた本質的な課題について、多くの示唆を共有いただきました。今回の発言にも、その問題意識が一貫して表れているように感じられます。
今回のインタビューで特に印象的であったのは、「株主還元の有無」そのものではなく、「企業が保有する経営資源を、中長期的な企業価値向上のためにどのように活用しているのか」という点に重点が置かれていたことです。
過去10年、日本ではコーポレートガバナンス改革が進展し、社外取締役比率の向上やガバナンス体制整備など、形式面では一定の成果が見られました。一方で、新発田氏は、「企業が本当に中長期的な価値を高められているかという点については、必ずしも十分ではない」と指摘されています。
また、同氏は、日本企業が十分に活用し切れていない資産として、「現預金」「政策保有株」「不動産」の“3点セット”に言及されました。これは単なる財務戦略の話ではなく、経営資源配分そのものに関わる重要なガバナンス課題であると言えるでしょう。
Bloombergがまとめたデータによれば、金融機関を除くTOPIX採用企業1215社の現預金残高は、2025年末時点で約130兆円に達し、10年前と比較して84%増加しているとされています。もちろん、事業継続性確保や不確実性への備えとして、一定水準の手元資金は必要です。しかし、その保有目的や活用方針について、投資家やステークホルダーに対して十分な説明がなされているかという点については、今後さらに問われていくものと思われます。
今回改訂が進められているコーポレートガバナンス・コードでは、こうした資産活用に関する内容が「原則」ではなく「解釈指針」に位置付けられました。この点について、一部では企業への拘束力が弱まったとの見方もありますが、むしろ重要なのは、「形式的な遵守」ではなく、「自律的に考え、説明する姿勢」が企業に求められている点にあるのではないでしょうか。
新発田氏がインタビューの中で述べられた「とにかく考えてほしい」という言葉は、非常に象徴的です。
すなわち、
なぜその資産を保有しているのか
その保有は企業価値向上につながっているのか
株主や従業員、社会に対して合理的な説明ができるのか
といった点を、取締役会自身が継続的に検証し続けることが、今後ますます重要になるものと考えられます。
さらに今回、金融庁は企業側だけでなく、機関投資家側にも厳しい視線を向けています。スチュワードシップ・コードに署名しながら、実質的なエンゲージメントを十分に行っていない機関投資家については、受入表明リストからの除外可能性にも言及されました。
これは、ガバナンス改革が企業のみならず、投資家を含めた市場全体の信頼性によって支えられるべきものであることを示していると言えるでしょう。形式的な「対話」や「対応」に終始するのではなく、実効性ある建設的対話が求められる時代に入っていることを感じさせます。
不正リスク管理や企業倫理の観点から見ても、本質的なガバナンスとは、「説明できない資産」「目的が曖昧な保有」「慣習的・惰性的な意思決定」を放置しない仕組みづくりにほかなりません。
ACFE JAPANとしても、今後の日本企業には、「整備されているように見えるガバナンス」ではなく、「企業価値向上につながる実効性あるガバナンス」が一層求められていくものと考えております。
今回の金融庁のメッセージは、日本のコーポレートガバナンス改革が、形式から実質へ、さらに次の段階へ進みつつあることを示唆しているのではないでしょうか。
【出典】
Bloomberg
「金融庁の新発田氏、企業の現預金活用促す-投資家にも厳格対応示唆」
2026年5月25日配信